ガライの雄

オーバースピードで走り続けてきた気がするんだ。
景色に溶ける自分に酔っていたんだと思う。



もしかしたら、サイドカーかもしれなかったが
峠でまっぷたつになって、方や行方がわからない。後を追わない。

急発進、急加速は当たり前。何処かにぶつかっても
とにかく夢中になってオーバースピードで走り続けた。景色は溶けていった。
標識も何度か見かけたが、構わずオーバースピードで走り続けた。

やがてエンジンは焼けてしまった。


乗り捨てて、僕は今度船に乗る事にした。

海に標識はなかった。

しかもスピードの出し方さえも知らない僕は
自分の力じゃ、前にも進めない事に勝手に苛立ち
ついにはあきらめて、
ただただ寝転がって、お天道様だけをみていた。



やがて、こんな板きれで浮いて漂うのも、良いもんだと。思うようになって、スピードを出す事なんてどうでも良くなった。

バランスを崩して、何度か海に落ちた事もあったけど
僕は笑ってまた乗り直した。



漂いながらも、見えてきた港に寄ると、
港の人々はとても温かい人ばかりで僕を迎えてくれた。

船を直してくれる人、怪我を直してくれる人、
再び旅立つ前の夜には、
皆で笑って、踊って、食べて、飲んで、ささやかに僕に元気をくれた。それがとてもありがたかったんだ。