佐野
夜の東北道はとっぷりと墨汁のような黒、時刻は20時。
北上し友人に会いに行った、栃木県佐野市。
ダルマストーブを囲んで、
珍味を携え、やかんに水を張り、地酒のワンカップを湯煎する。
僕は靴を脱いで半あぐら。
そのくらい気心が知れている訳だ。
『テレビもないから』とAMラジオ。
古いラジオだから、チリチリ言っている。
どこか海外の局の電波なのか、DJはファンクをかけ続けていた。
やあ、明日が最期の日でもべつにいいや。と勝手に僕は思った。
その何処か
懐かしくも有り、ライク昭和な、夢の中の出来事のような、
その酒汲み交わしの空気がとても楽しくて仕方が無かったから。
案の定、12時位にパタリと寝てしまう僕。
「さようなら、世界」と思いながら瞼を閉じたさ、
だってやかん熱燗も美味しかったんだもの。
このような僕の酒場での身勝手な不逞も許されてしまう、
深い親交のある10年来の友人なのである。
この自分の瞼に広がる今日、
奇抜な色がなく、田畑が広がる。
耳に入ってくる音も必要最低限のみ。
鳥、風で揺れる木、水の流れる音。
美しいなと見とれていた。
最期に彼の父親が僕らを撮影してくれた。
大事な写真がまた1枚増えた、めったにしないピースをする僕は
それはとても大事な日だったという事の証なのである。